夏から秋の時期に飛行機を利用する場合に遭遇する可能性が高いトラブルの1つ、台風。
特に、飛行機が強い雨はともかく、離着陸時の強風に弱いという特性を持つ乗り物ということもあって、台風が通過する進路上やその周辺に立地する空港では、発着便の遅延や欠航が発生してしまうことになります。
ちなみに、台風による航空便への影響は、台風が空港に接近する短ければ数時間から長くても1日程度の時間ですから、同じ空港を利用するとしても、たった1日の搭乗予定日の違いだけで、いつも通り何事もなく利用できるケースと遅延や欠航に悩まされるケースというように、あっさりと天国と地獄に別れてしまうのも台風によるトラブルの特徴と言えるかもしれません。
目次
2023年8月10日に朝鮮半島を直撃した台風6号
そういった事情もあって、できる限り関わりを持ちたくはない台風が原因のトラブルですが、つい最近実際に遭遇し、その影響を受けてしまうことがありました。
それが、2023年8月の台風6号です。
この台風は、速度がゆっくりで広い範囲に長時間継続して強風や大雨の被害をもたらしただけではなく、沖縄地方では一度進んだルートをUターンして戻るなど、その進路自体も特異的なものでした。
そんな台風6号も2023年8月9日の夜には日本を離れて北上し、翌日10日は朝鮮半島に上陸する進路を進みました。
そうなると、台風上陸中の朝鮮半島にある韓国・ソウルを目的地とした、8月10日のソウル発着便は台風の影響をしっかりと受けてしまうことに。
実際、日本の航空会社としてソウル便を運航しているJALもANAも、前日9日の夕方から8月10日のソウル便は台風の影響を受ける可能性がある便としての案内を始め、無料での払い戻しや予約変更といった特別対応の提供も開始されています。
9時間以上の遅延も含む出発時間変更
日付が変わって8月10日になると、さらに状況は変化し、JALでは出発時間の変更を伴う運航計画が案内されるようになりました。
具体的には、JALが運航する羽田-ソウル線は、
- JL91 東京・羽田08:25発 → ソウル・金浦10:45着
- JL93 東京・羽田15:40発 → ソウル・金浦18:00着
- JL95 東京・羽田19:40発 → ソウル・金浦22:00着
の3便が用意されているのですが、そのうちのJL91便とJL93便の2便については、
- JL91 08:25発 → 17:40発
- JL93 15:40発 → 18:10発
というように、出発時間が大幅に変更された形で運航されるというもの。
特に、朝の早い時間出発予定だったJL91便に至っては、08:25発から17:40発への変更に伴って、9時間15分もの遅れが発生したわけですから、出発時間の大幅な変更を知らずに空港を訪れてしまった利用者にとっては、思いがけず新しい出発時間までの長い時間を空港で過ごす1日になってしまうことに。
また、出発時間の変更が生じなかったJL95便と合わせて、JL91便、JL93便、JL95便の3便が、同じ航空会社の運航による国際線にも関わらず、2時間以内の短い間隔で同じ羽田空港を次々と出発し、同じく2時間以内の短い時間の間に続々と金浦空港に降り立つわけです。
つまり、JALとしては、羽田空港から出発する金浦空港行きの便をすべて夕方以降の時間帯にまとめたというように考えると、JALの台風対策としての出発時間変更の狙いが分かりやすいかもしれません。
結果的に、JALが8月10日に運航した羽田-ソウル線では、
- JL91 ソウル・金浦10:45着予定→ソウル・金浦20:04着(9時間19分遅れ)
- JL93 ソウル・金浦18:00着予定→ソウル・金浦20:22着(2時間22分遅れ)
という内容の遅延が発生することになりました。
早朝&夜の時間帯にかけたANA
こうして羽田空港から出発する金浦空港行きの便をすべて夕方以降の時間帯にまとめた形のJALですが、遅れこそ発生してしまったもののJL91便、JL93便、JL95便の3便全てが無事にソウル・金浦空港に到着することができました。
そうなると気になるのが、JAL以外の航空会社は8月10日の羽田-ソウル線でどのような運航を行ったのかということです。
実際、同じ日本の航空会社でも、ANAの場合はというと、
- NH861 東京・羽田08:40発 → ソウル・金浦11:05着
- NH863 東京・羽田12:05発 → ソウル・金浦14:25着
- NH865 東京・羽田16:10発 → ソウル・金浦18:35着
の3便が羽田-ソウル線として運航されているのですが、このうち、8月10日に遅延が発生したのは、
- NH863 ソウル・金浦14:25着予定→ソウル・金浦19:00着(4時間35分遅れ)
- NH865 ソウル・金浦18:35着予定→ソウル・金浦19:38着(1時間3分遅れ)
の2便のみで、朝早くに運航されたNH861は、
- NH861 東京・羽田09:03発 → ソウル・金浦10:37着
というように定刻よりも早い10時37分には金浦空港へと無事に着陸しています。
つまり、ANAとしては、昼から夕方にかけての時間帯のみ台風の影響を受ける可能性が高いと予想した一方で、それ以外の朝早くや夜遅くといった時間帯は問題なく運航できる可能性が高いと考えたということですね。
結果だけ見ると、NH863では最大4時間半ほどの遅れは発生してしまったものの、JALのJL91便のような9時間半ほどにもなる遅延を発生させなかったという意味で、利用者にとってはANAの方が嬉しい運航判断だったと言えるかもしれません。
通常運航を選択した大韓航空
このように、JALとANAという日本の航空会社同士でも意外に異なるという点で興味深い台風対策としての運航方針ですが、さらに印象的なのがJALと提携していて、コードシェア便を運航している大韓航空かもしれません。
というのも、大韓航空では、
- KE2106/JL5245 東京・羽田09:20 → ソウル・金浦11:45
- KE2102/JL5235 東京・羽田12:25 → ソウル・金浦14:45
- KE2104/JL5237 東京・羽田19:45 → ソウル・金浦22:05
の3便が羽田-ソウル線として運航されているのですが、あくまで定刻通りの出発時間と到着時間での運航が予定されていたというのはなかなか驚異的。
しかも、実際の運航結果としても、
- KE2106/JL5245 ソウル・金浦11:45着予定 → ソウル・金浦12:01着(16分の遅延)
- KE2102/JL5235 ソウル・金浦14:45着予定 → ソウル・金浦15:30着(45分の遅延)
- KE2104/JL5237 ソウル・金浦22:05着予定 → ソウル・金浦21:49着(16分の早着)
という台風の影響下にあったことを考えると十分以上に良好なもの。
特に、最も大きな遅延に注目してもKE2102/JL5235の45分まで抑えられていて、JALでの最大の9時間19分遅れやANAでの最大の4時間35分遅れと比べてみると、その差は想像以上というのが正直な部分です。
つまり、8月10日に限ってはJALよりもANA、そしてANAよりも大韓航空が、より台風の影響を受けない形での運航が行えたと言えるかもしれません。
それにしても、JALやANA、そして大韓航空も、多少の違いはあったとしても、
- 社内の気象予報の専門家により作成された予報データ
- 外部の気象予報専門の会社から提供された予報データ
- 様々な国の公的な気象予報機関が発表する予報データ
など、それぞれがベストと考える気象情報を元に運航の可否や運航時間の変更等の判断を行っているはずなのですが、結果的に運航の方針はもちろん、その結果にも無視することができない大きな差が生じるというのは興味深いと感じる部分です。
台風を含めた天候が理由で遅延が発生した時に提供される特別対応
こうして航空会社間でも意外にあっさりと結果が分かれてしまうこともある台風による運航への影響ですが、気をつけなくてはいけないのが、遅延や欠航が発生してしまった時に、より影響の少ない航空会社への振替といった特別対応の可否かもしれません。
というのも、台風や大雪などの天候が原因で、航空会社側に責任のない遅延や欠航については、特別対応としてのサポートは提供されるものの、その内容に大きな制限が加えられているからです。
具体的には、
- 同クラス&同区間で空席のある便への無料での予約変更
- 無料での全額払い戻し
の2つが基本とされています。
もちろん、飛行機の故障などが発生するなどの航空会社に責任のある遅延や欠航の場合には、上記の2つに加え、
- (移動距離の増える)経由便への変更
- 他の航空会社の運航便への変更
なども追加で認められることと比べると、その違いは大きいですね。
そうした事情がありますから、台風による遅延や欠航といったトラブルに巻き込まれた際には、自分が予約した航空会社よりも良い運航判断をしていると感じる航空会社の存在に気が付き、うらやましいと思ったとしても、残念ながら特別対応内での別の航空会社への変更は基本的には期待できません。
まとめ
夏から秋にかけて日本列島に接近、あるいは上陸する台風。
飛行機を利用する場合、遅延や欠航などが発生する大きな原因の1つになっています。
しかも、その影響の大きさに加え、その影響範囲の広さにより、どの空港にどの程度の影響が発生するのか分かりにくいということもあって、同じ日に同じ路線を運航する航空会社間でも、運航判断が分かれるなど、航空会社にとっても難しい相手ということが感じられます。
とは言え、航空会社側も、時には数時間単位で遅延が発生する出発時間変更を行ってでも、可能な限り飛行機を飛ばそうとするなど、全力で台風に立ち向かってくれていることは感じられるはず。
そうした航空会社側の熱意や意図を理解した上で、利用者自身がより良い選択肢を選び取るためにも、航空会社のホームページやアプリ、メールなどで提供される運航情報をちょくちょく確認したりするのは、とても大切なことだと思いますよ。
コメント
ご無沙汰しております。
とんだ災難でしたね。現地で予定を組まれていたなら、連絡だけでも大変だったとお察しいたします。
さて、おっしゃるように、自然災害と機材故障や飛行中の急病人対応とでは、特別対応の内容が変わることは基本線として押さえておいた方が良いと私も思います。
これを知っているかいないかで、その後の予定が大きく変わりますから。
私が経験したケースは、約25年前、函館から羽田行きJAL便がエンジン不具合で欠航。後続便が他社便も含め全て満席でどうしようかと思っていたとき、カウンターの空席表示にJAL福岡行きを発見。そこで、福岡経由羽田行きに変更できるか聞いたところ、OKの返事が。また、福岡でのMCTも満たしていたため、同日中に羽田空港まで帰ることができ、自宅にも午前0時ちかくにはなりましたが無事にたどり着けました。
ちなみに、この話のオチは、2便とも同一機材、同一クルーで人生初の「お帰りなさい」コールを受けたことでした。
(なお、現在は、函館福岡JAL直行便はなかったと思います。)
おがさん、こんにちは。
お久しぶりです。
コメント、本当にありがとうございます。
そうですね、お気遣いいただきましたように、台風の影響に巻き込まれたのがちょうど繁忙期の真っ只中ということもあって、予約変更先として提案してもらえる空席も乏しく、飛ばなかったらどうしよう!とか飛んでもソウルに着陸できなかったらどうしようという羽田で待つ間、ずっとそのドキドキ感を感じていたように思います。
とは言え、無事に夜のソウル金浦空港に降り立ってみると、拍子抜けしてしまうほど風も吹いておらず、雨こそ降っているものの霧雨程度。
幸いなことに朝鮮半島を横断して韓国北方に位置するソウルに近づくまでに台風の勢力もだいぶ弱まったのかもしれません。
それにしても、おがさんの函館からの羽田行きは日本列島をぐるりと回り込むダイナミックな旅程となり、予約と座席を確保してからも飛行時間の面でも大変な出来事だったかと思います。
さらにどうしても気恥ずかしくなってしまう同一クルーによる「お帰りなさい」のお出迎えまで。
そして、国際線だけではなく国内線でも、少し前までは函館-福岡のような多彩な路線が残っていたことを懐かしく思い返せました。
実は私も今年の3月に沖縄那覇から羽田までのJAL便の予約で、搭乗便のエンジンに故障が発生した結果、羽田からの修理部品到着待ちにより、8時間の遅延に見舞われたことがありました。
その際には、春休みの卒業旅行シーズンということもあってか、後発便がJALやANA含めWEB上ではほぼ満席で、8時間遅れでオリジナルの便に搭乗するしかないかなと思ったのですが、那覇空港のカウンターで聞いてみると、誰が搭乗しても良い形で確保していたというANAなどの他社直行便や経由便なども大盤振る舞い状態で提案されることに。
これには、さすが自社事由(責任)の故障による遅延だなあ、台風とかの自然災害理由とは違うなあと、不思議と感慨深いものを感じました。
また、最近は、ブログ更新を強化していくつもりですので、おがさんには時々でも再訪いただけると大変嬉しく思います。
今回のコメント、本当にありがとうございました。
こちらこそコメントありがとうございました。
8時間のDelayは、私も遭遇したかもしれません。今年の3月だったと思いますが、902便が故障し、結果として同便の代替機材が羽田からフェリーされたJA703J(W64)だったと記憶しています。
1便(特に午前便)の場合は、その後の機材繰りに大きな影響を与え、那覇、羽田を中心に混乱していました。
私は、同日と思われる日の917便で那覇へ向かう予定でした。羽田空港に着くと搭乗手続が一時中止。いろいろ情報を集めると上のトラブルの影響を受けていることが分かりました。
さて、JALさんはどうトラブルを解決したかですが、福岡から到着するA359同型機で座席コンフィグレーションも同じ機材を急遽917便に充て、代わりに折り返しの福岡便を787-8に置き換える措置が取られました。
これで、917便はオーバーブックのトラブルを回避でき、福岡便は予約座席数に少し余裕があったようで、大きな混乱にはなりませんでした。917便は、1時間遅れとはなりましたが、無事那覇へ着きました。機内からまだ動けないでいた902便の姿も見えました。
この事例、昔は考えられなかったことです。今は、JALさん本社組織の一つにIOCがあり、内際全便をモニターしながら、イレギュラー時の対応を臨機応変にどう取るか、の運用が上手くはまったと思います。
機材(予備機も含めて)、乗務員の手配(スタンバイ出動も含めて)、乗客数のコントロール(できる限り目的地へ)などの最適解を探すのがいかに大変かは、想像に難くない気がします。
おがさん、こんばんは。
再度のコメントありがとうございます。
いやー、世間は狭いですね。
まさに私が搭乗を予定していて、エンジン故障による遅延に巻き込まれる原因となったのが、そのJL902便でした。
しかも、おがさんがJL917で那覇空港に到着された時にも、JL902便として運航されるはずだったその機材があのまま動けない状態という、その後の様子まで数カ月後の今になって伝え聞くことができたのも本当に思いがけない出来事になりました。
私自身はというと、当時15時頃に那覇空港を出発するJL912便への振替が行われ、その便に搭乗したので、1時間遅れのJL917便に搭乗されたおがさんとは羽田-那覇間を結ぶ航路上のどこか上空ですれ違っていたのかもしれませんね。
また、最近はなんとなく国内線ファーストやクラスJが不足することが原因の搭乗クラス変更依頼の伴う機材変更を見かけることが増えているなぁと思っていたのですが、今回のコメントでご説明いただいたJALのIOCによる大胆なイレギュラー対応がその一因かもしれないと感じました。
今回も大変興味深いコメント、本当にありがとうございました。
とても嬉しかったです。